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母の部屋にあったものを処分して、片付けがすっかり終わった。
今回は妹と2人でやったのでスピーディーに片付いた。
父の様子を介護スタッフに尋ねたら、母の部屋に行って話しかけていたそうだ。
食事の時も俯いてしょんぼりしていたという。
そこで元気づけのためにも予定通り母の遺体に会いに行ってきた。
道すがら、昨夜父の部下と話して父の無実が判明したことを伝えた。
母が父のことを嫌悪するようになったのは、1枚の名刺を見つけたことがきっかけだった。
それはかつて父が勤務していた九州の某県のスナックのママのもので、裏に「あなたの子どもが2歳になりました。安心してください」と書いてあった。
それを見つけた母は大変なショックを受け、父を問い詰めると言ったが、散々悩んだ挙句に結局黙っていることを選んだ。
その代わり父が歳をとって弱った時にそれを見せて問い詰め、いじめてやるのだと言った。
それでも気持ちは収まらず、何かにつけて「お父さんは酒ばっかり飲んで、家庭の事は何も顧みず、浮気して子どもまでいる」とわたしたちに繰り返していた。
施設に入ってもなお、そのはなしをh何度も蒸し返していた。
あまりにも繰り返し聞かされていたために、わたしたち姉妹もすっかりしの話を信じ、家庭を顧みないひどい父親だと思っていたのだった。
だが、昨日父のかつて部下だった人の話を聞いて、それが全くの誤解であることを知った。
父は国家公務員で2年ごとに転勤で各地を転々としていた。
そして九州のある県に行ったときに問題の事件が起こった。
50年前、父は毎日残業続きで土曜日にもよく出勤していたが、それだけでなく毎晩のように仕事の後の飲み会に出ていた。
当時わたしはお父さんの顔忘れたと言っていたという。
だが仕事のあとの飲み会は、当時の九州では当然で、そこで仕事の話をするのが普通だった。
その飲み会の場所を提供していたのが例の名刺のママのスナックだったのである。
そのスナックの名前を聞いて、元部下の方はそこのママと故人的な付き合いをするなど絶対にありえないと言った。
なぜなら、田舎の狭い社会なので、そんなことをしたらすぐに万人の知るところとなってしまうからだ。
ただでさえ足を引っ張ってやろうとする人が多い中、みすみす相手にネタを提供するようなことを父がするはずがないと言う。
そして、父のことをねたんで卑劣なことをする人の顔が数名浮かんだというのである。
「あー、川上さんははめられたんですね」と言うのだ。
実際その当時母のところに、おたくの夫は不正をしているとかなんとか、匿名のあやしげな電話がかかってきたことがあったと母から聞いたことがある。
父の性格からそれはあり得ないと思った母も、浮気の話は信じてしまった。
父にその話をすると、中央から来た年下の父に嫉妬をする年配者や、自分のことを重用してくれなかったと恨みに思う人は必ずいると言う。
だが、そんなものをいちいち気にしていたら仕事なんかできないので、全てスルーしていたと。
その名刺について父は全く覚えていなかったが、わたしが想像するに、またこんなことをするやつがいると、とりあえず定期入れの中に入れて、そのまま忘れてしまったのではないだろうか。
それを母は、父が定期入れの中に大事にしまいこんでいたと思い込んでしまった。
父に当時のことを聞いてみると、仕事に一生懸命で多忙を極めており、その上余計なトラブルを背負い込むのはごめんなので、浮気など考えたこともないと言う。
父は幼い頃に両親を亡くしたので家庭の安らぎを知らずに育ったので、母との暮らしにそれを求めていたのだろう。
母のことが好きだったかと聞いたら、嫌いではなかったと言った。
もしこんな誤解がなかったら、仲良し夫婦になっていたのではないだろうか。
母が父を誤解し恨んだまま亡くなったのは、本当に残念でならない。
わたしたちも父のことを長年誤解していたが、実際には家族のため、より良い労働行政のため、身を粉にして働いていたのだった。
父は穏やかでわたしたちを厳しく叱ったりせず、やりたいことをなんでもやらせてくれて、お金も出してくれた。
疎ましく思ってごめんなさいという気持ちでいっぱいだ。
母もこんな誤解がなければ、わたしたちにももっといい母親だったと思う。
わたしたち家族を半世紀もの間地獄に突き落とした下衆野郎は、地獄の業火に焼かれて欲しいと願っている。
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